只今、お前たちの上にうちつけてやるのだ。うわッはッはッはッ」
 その物凄い咆哮《ほうこう》に和《わ》するかのように、流れるような雨脚とともに、雷鳴は次第次第に天地の間に勢を募らせていった。
「おお、荘厳なる雷よ! さあ、万丈の天空より一瞬のうちに落下して、脳天をうち砕き、脾腹《ひばら》をひき裂け!」
 彼はこの世の人とも思われぬ、すさまじい形相をして、恐ろしい呪いの言葉を吐いた。
 そのときだった。
 紫電一閃!
 呀《あ》っと叫ぶ間もなく、轟然、地軸が裂けるかと思うばかりの大音響と共に、四郎の乗っている櫓は天に沖《ちゅう》する真赤な火柱の中に包まれてしまった。
 北鳴四郎の身体は、一瞬のうちに一抹の火焔となって燃え尽してしまったのである。
     ×   ×   ×
 丁度その頃、お里の兄の雅彦は、下り列車が比野駅構内に入るのも遅しとばかり、ヒラリとホームの上に飛び下りた。それから、改札口を跳び越えんばかりにして、駅の出口に出たが、なにしろ物凄い土砂降りの最中で、声をかぎりに呼べど、俥《くるま》もなにも近づいて来ない。彼は地団太《じだんだ》を踏みながら、その手には妹から来た手紙をシ
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