い撚り銅線《あかせん》を外せば、百円近い金になることを教えたのだった。それを聞いた化助は躍り上って悦び、四郎の居ない間に、樋の中に隠れている部分の銅線をすっかり盗み去ったのである。だからあの大雷雨のとき、四郎の頭上に聳《そび》えていた針は、完全なる避雷針ではなかったというわけである。――雷が、高さが百尺もあるお誂え向きのこの二基の櫓に落ちたことは極めて合理的だった。
 斯《か》くして、皮相なる科学は、遂に深刻なる人間性の前に降伏した。
 高村町長は、自分の家が第三番目の落雷殺人の計画に挙げられていたと知って、気絶しそうなほど驚いた。
 松吉はもうすっかり健康を取戻しているが、彼は未だに、避雷針に接地線を繋ぐことは、これ邪道中の邪道と信じて疑わない。だから若し彼に避雷装置の工事を頼むような羽目になった人は彼の帰った後で別の電気屋を呼び、逞《たくま》しい接地線を、避雷針の下から地中まで長々と張って貰うように命令しなければならない。



底本:「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」三一書房
   1989(平成元)年4月15日第1版第1刷発行
初出:「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社

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