松吉はひどく神経質になり、而《しか》もたいへん嫌人性になって、彼の穢《きたなら》しい小屋の中に終日閉じ籠っていた。
その間にも、前科者の化助は、毎日のようにやって来て、松吉から金を絞り取ってゆこうと試みた。松吉は泣かんばかりになり、化助を追い払うことに苦しんだが、そのうちに松吉がどう化助をあしらったものか、バッタリ来なくなってしまった。
遉《さすが》の北鳴も、雷の遅い足どりを待ち侘びて、怺《こら》え切れなくなったものか、櫓の上から活動写真の撮影機の入った四角な黒鞄を肩からブラ下げてブラリと町に出、そこに一軒しかない怪しげなるカフェの入口をくぐって、ビールを呑んだりした。
そのうちに、このカフェから、妙な噂が拡がっていった。それは元々、つい一両日前からこのカフェの福の神となった化助の口から出たことであったけれど、北鳴のさげている鞄には撮影機が這入っているにしてはどうも軽すぎるという話だった。撮影機が入っているなどと北鳴が嘘をついているのだろうという説と、そうではなくて、北鳴の持っている撮影機のことだから、さぞ優秀な品物で、軽金属か何かで拵《こしら》えてあり、それでたいへん軽いのだろ
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