は今度は、なんだか自暴《やけ》に気持が悪くて仕方がない。なんだかこう、大損をしたような、そしてまた何か悪いことがこの櫓に降って来るような気がして、実に厭な気持なんで……。最後の、三番目の仕事までは、旦那がなんといったって、儂は暫く休みますぜ」
「なんだ、気の弱い奴だ。この櫓に、どうして悪いことが起るものか、そんな馬鹿げたことは金輪際ないよ」
「イヤ、儂はだんだん妙な気がしてくる」と松吉は俄かに青ざめながら「どうも変だ。この櫓の上に、物凄い雷が落ちて、真赤な火柱が立つ。……それが目の前に見えるようなので。……ああッ……」
と云うと、松吉はフラフラと眩暈《めまい》を感じてよろめいた。
「なんと無学な奴は困ったものだ」と北鳴は松吉の腕を支えた。「この櫓には、学問で保証された立派な避雷針がついているんだ。神様が悪魔になったって、この櫓に落雷などしてたまるものかい。はッはッはッ、莫迦莫迦しい」
9
二度目の櫓は建ったが、北鳴四郎はそれを利用することなくして、来る日来る日を空しく送った。それは、折角待ちに待った雷雲が一向に甲州山脈の方からやってこないためだった。
その間に、
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