うことですけれど、それなら櫓は一つでよかりそうなものだわ。二つは要らないでしょうにネ。変だわネ」
お里も、町長の高村翁と同じような疑問を懐《いだ》いていた。
「うん、そうだ。赤外線写真と云えば、君の兄さんも、しきりにあれ[#「あれ」に傍点]に凝っていたっけ」
「そうよ、雅彦《まさひこ》兄さんは、赤外線写真が大の自慢よ。……そうだ、そういえばあたし兄さんのところへ、手紙を出すのを忘れていた」
「なんだ。またかい、忘れん坊の名人が。……」
二人はそこで声を合わせて笑った。彼等の背後に、恐ろしい悪魔が、爛々《らんらん》たる眼を輝かせ、鋭い牙を剥いていようとは、古い言葉だが、神ならぬ身の、それと知る由《よし》もなかった。
英三夫妻の移った二階家から、丁度等しい距離を置いて左と右とに、同じ様な高さ百尺の櫓が、僅か一日のうちに完成した。
四郎は工事場をあっちへブラブラ、こっちへブラブラと歩きまわっていたが、非常に嬉しそうに見えた。
「北鳴の旦那。……」と、肩の重荷をまた一つ下ろした筈の松吉が、浮かぬ顔で、彼を呼び止めた。
「なんだ、松さん。……素晴らしい出来栄えじゃないか」
「ねえ旦那。儂
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