らば、門をくぐる患者も殖えることであろうと思われた。
「オイお里。……どう考えても、北鳴氏は親切すぎやしないかねえ」
「アラいやアね。また始まった。一体|貴郎《あなた》は幾度疑って、幾度信じ直せば気がすむんでしょ。……すこし気の毒になってきたわ」
「なアに、疑っているというほどではないよ。……それは親切でなくて、僕たちが幸運で、お誂え向きのところへ嵌ったといった方がいいかもしれない。とにかく、この家は素敵だぜ」
 まだ子供のない二人は、いつも新婚夫婦のように若々しくて、仲がよかった。
「オイオイ、ちょいと上って来てみろ、妙な櫓が建つ!」
 と英三は階下の細君に向って叫んだ。
「アラ櫓ですって。……」
 お里は驚いた顔つきで、トントンと急な階段をのぼってきた。
「まあ本当だわ。右と左と、同じような櫓ですわネ」
「どこかで見たような櫓だネ」
「どこかで見たって、ホホホ、もち見た筈よ。だって、里のお父さんの家の二階から見えたと同じような櫓ですわ」
「そうそう、憶《おも》い出した。……すると、あれは矢張り、北鳴氏の実験に使うものなんだネ。ほう、妙な暗合だ」
「赤外線を採集して映画を撮るんだとい
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