宿に伺候した。
「オイ、本当にもう大丈夫か。酔っとりはしないというのだな」
「へえ、もう大丈夫でして。……」
 と、松吉はまたペコペコ頭を下げた。
「では、もっとこっちへ寄れ。……明日からの仕事の櫓だ」
 松吉は、ペコリとお辞儀をして、近よるどころか、少し後へ下った。
 北鳴の示した図面によると、今度の二|基《き》の櫓は、比野町の西端、境町の水田の上に建てることになっていた。構造は前と同じようなものであった。しかし材料はすべて、新しいものを使い、例によって、明日一杯ぐらいに建ててしまえという命令だった。松吉は確かに承知した旨《むね》、回答した。
 その後で、松吉は酔っていないのを証明するために、北鳴と雷問答を始めたのだった。
「ねえ、北鳴の旦那。今年は、雷が非常に多くて、しかも強く、町の上にポンポン落ちるような気がしますが、どうしたわけでしょうナ」
 北鳴はジロリと横目で松吉を睨み、
「お前が、妙ちきりんな避雷針を建てたりするからだ」
「……でも旦那」と、彼は膝を進めて「そういっちゃなんですが、旦那の櫓も、上に避雷針をのっけて、妙に高い高価な銅線《あかせん》を地中に引張り込んでサ、あれ
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