だ御災難で……」
「ええ、飛んだことになりまして。……」
 四郎の言葉には、すこし余所余所《よそよそ》しいところがあるばかりで、一向恨みがましい節も見えなかった。お里はこれを感ずると、それまでの張りつめた気が急に緩んで、全く弱い女になりきってその場に泣き崩れた。
 すこし遅れて入って来た英三は、この場の光景に、ムラムラと憤懣《ふんまん》の気持を起した様子で、
「おお貴方が北鳴君ですか。僕がお里の亭主の英三です」
 と、叩きつけるように云った。
 それを聞くと同時に、四郎の顔から、今までの含羞《はにかみ》や気弱さが、まるで拭ったように消え去った。彼は、くそ落付《おちつき》に落付いて挨拶を交《か》わした。
「やあ……。申し遅れましたが、私が高層気象研究所の北鳴です。こんどは御両親が飛んだことで。……それに貴方も、類焼の難に遭われたとかで、なんともはや……」
 この静かな挨拶に、英三とても自らの僻《ひが》んだ性根に赭《あか》くなって恥入ったくらいだった。
 火を噴くかと思われた恋敵同士の会見が、意外にも穏かに進行していったので、一座は思わずホッと安心の吐息をした。それからのちも北鳴は、憎いほ
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