に、そしてもっと大胆に振舞ってはくれなかったのだろう。英三との縁談が降って湧いたとき、なぜ自分を唆《そその》かして、共にこの町から逃げようとはしなかったのだろう。お里に云わせると、四郎は温和な悧巧な美少年だったけれど、あまりにも心が弱かったし、女のように拗ねたがる男であったし、そして自らは知らぬらしいが見栄坊でもあった。彼は、そのために、決断力が足りなくて、そして自分で恋を捨てたようなものだった。彼は博士になるという話だが、人間放れのした博士には当然なれるかも知れない。しかし一人として血の通った女を手に入れることは出来ないであろうと思った。――彼女は、もうこうなれば、彼から恨みがましい言葉を聞いたときには、なにもかもその場に勇敢にぶちまけて、彼の卑屈な性根を叩きのめし、揚句の果に死んでしまってもいいと決心をした。
 そこでお里は、重い花束を左手に持ちかえて、しずしずと奥の方へ進んでいったのであった。
「ほんとに四郎さんだったわネ。……ずいぶん暫くでしたのねえ。……」
 四郎は木乃伊《ミイラ》のように硬くなっていた。
「やあ、お里ちゃん。暫くでしたネ。……ところで今度は、御両親たちは飛ん
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