こっちへ近づいてくる人影があった。人数は二人、ピッタリと身体を寄せ合って、やってくる。なにかボソボソと囁《ささや》きあっているが、話の意味はもちろん分らない。だがたいへん話に熱中していると見え、路傍に紳士が立っているのにも気づかぬらしく、通りすぎようとした。
「……モシ、ちょっと。……」
と紳士が暗闇から声をかけると、
「うわッ……」
というなり、二人の男は、その場に立ち竦《すく》んでしまった。そのときカランカランと音がして、長い竹竿が二人の足許《あしもと》に転がった。
「ちょっとお尋ねするが、この村に、大工さんで松屋松吉《まつやまつきち》という人が住んでいたですが、御存知ありませんかナ」
「えッ……」
といって二人は顔を見合わせた。
「どうです。御存知ありませんかナ」
と紳士が重ねて尋ねると、そのうちの一人が、ひどくおんぼろ[#「おんぼろ」に傍点]な衣服の襟《えり》をつくろいながら、オズオズと口を開いた。
「ええ、松吉というのは、儂《わし》のことですが、そう仰有《おっしゃ》る貴方《あなた》は、どなたさんで……」
「ナニ、あんたが松吉さんだったのか。これは驚《おどろ》いた」と、
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