二個所、目障りな櫓を建てられ、なんとなく眩暈《めまい》のするような厭《いや》な気分が湧くという外《ほか》になかった。しかしそんな非礼な言葉を、この福の神に告白して、その御機嫌を損ずる気は毛頭《もうとう》なかったのである。
「あれは、赤外線写真でもって、活動写真を撮るためなんですよ」
「へえ活動ですか。……何の活動を……」
「それはつまり甲州山岳地方に雷が発生して近づいてくる様子を撮るのです。この写真機というのが私の発明でしてネ。従来の赤外線写真では出来ない活動を撮ります」
「ははア、雷さまのことだから、高い櫓が要るのですナ。しかし二本も櫓を建てたのはどういう訳ですか」
「櫓が二つあるというわけは……」と、北鳴四郎はちょっとドギマギした風に見えた。「それはつまり、相手が雷のことですから、櫓には避雷針を建てますが、いつ雷にやられるとも限らない。それで一方が壊されても、他の方が助かって、目的の活動が撮れるようにというわけです」
「なるほど。……して、その活動は誰が撮るのですか」
「それは私です。私只一人が、あの櫓にのぼって撮ります」
「ほほう、それは危い」
「ナニ大丈夫です。……私はネ」
 
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