そんな話の間に、雨は急に小やみになってきた。雲間がすこし明るく透いてきた。雲足は相変らず早く、閃光もときどきチカチカするが、雷鳴はだいぶん遠のいていった。どうやら今日の夕立は、比野の町をドンドン外《そ》れていったらしい。
そこへお手伝いが上って来て、下へ松吉が訪ねて来たという知らせだ。幸い雨は上ったことだし、北鳴四郎は辞去《じきょ》を決して、二階を下りていった。老人夫婦は残念そうに、その後について、送ってきた。
松吉は土間に突立っていた。
「北鳴の旦那。避雷針の荷が今つきました。ちょっと見て頂きとうござんす」
「そうか。荷は皆下ろしたかネ」
松吉は大きく肯いた。
北鳴は、土間に下りながら、そこに積まれた夥《おびただ》しい油の缶に目をつけた。
「ああ、これは危険だねエ。稲田さん、いつこんな油の商売を始めたんです」
「へへへへ。――これはもう二年になりますネ。東京から商人が来ましてネ。しきりにこの商売を薦めていったもんです。資本《もとで》はいらないから始めてみろ、商売がうまく行けば、信用だけでドンドン荷を送るというので、つい始めてみましたが、……たいへんよく気をつけてくれるので、ま
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