かえ、曾ては仲を裂きまでした北鳴が、こうして全身から後光の出るような出世をして、二千円や三千円の金は袖に入れているという風な豪華さで、さらに博士まで取ろうとしている。老人たちにとって、それは痛くもあり、且《か》つは羨《うらやま》しいことであった。なんとかして機嫌をとって置いて、何とかして貰いたいものをと、彼等の慾心は勘定高いというにはあまりにも無邪気だった。
「……そこで四郎さん。あの高い櫓を拵《こしら》えてどんなことにお使いなさるですか」
 と、老夫人は団扇《うちわ》の風を送りながら訊いた。
「ホウ、それそれ。わしもそれを伺おうと思っていたところだ。……」
 と稲田老人も膝をすすめる。
「……あの櫓のことですか」と、二人の顔を見て北鳴はニヤリと笑った。二階の欄干をとおして、雨中に櫓を組む人夫の姿が、彼の眼底に灼《や》きつくように映った。
「はッはッはッ。あれを見て、貴方がたはどんな風にお考えですか。いやさ、どんな感じがしますかネ」
「どんな感じといって、……別に……」
 と、老人夫妻はその答に窮したが、そのときの気持を強《し》いて突き留めてみれば、この二階家から同じ距離を置いて左右に
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