んじゅん》のうちに、いよいよ疾風がドッと吹きつけてきた。黒雲は、手の届きそうな近くに、怒濤のように渦を巻きつつ、東へ東へと走ってくる。
 ピカリッ!
 一閃すると見る間に、向うの野末に、太い火柱が立った。落雷だ。
「……どうです、北鳴さん。私の家はすぐそこですから、夕立の晴れるまで、ちょっとお寄りなすって雨宿りをせられてはどうです」
 稲田老人は、北鳴四郎の洋服を引張らんばかりにして云った。
「ええ、ではちょっと御厄介になりますかな」
「ああ、それは有難い。……ささ、そうなされ」
 北鳴は、松吉を激励して、工事場を出ようとした。そのとき外からアタフタと駈けこんで来た男があった。
「オイ松さん。松さんは居ないか」
「おお化の字。儂はここに居るが……何か用か」
「やあ松さん、たいへんだ。お前の建てた半鐘梯子に雷が落ちたぞ。バラバラに壊れて、燃えちまった。下に繋いであった牛が一匹、真黒焦《まっくろこげ》になって死んでしまったア」
「ええッ。……」
 呆然たる松吉の方を、それ見たかといわん許《ばか》りの眼つきで睨んで、北鳴四郎は沛然《はいぜん》たる雨の中を、稲田老人と共に駈けだしていった。


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