は何とか写真の活動写真を撮るためだといいなさるが、むしろ村にゃ似合わない素晴らしい避雷針を建てたようなものですよ。儂は思いますよ。避雷針があると、かえって雷を引き寄せて、落雷が多くなるとネ。それも、素敵な避雷針は、なお強く、雷を呼び寄せる。……」
北鳴四郎は、苦がり切った面を、松吉の方に向け、
「素人《しろうと》に、何が分る。雷は、お前たちの手にはどうにもなりゃしない」
「では、雷には玄人《くろうと》の旦那には、雷が手玉に取れるとでも云うのですかネ。そんなことがあれば、仕事の上に大助かりだね。教えて貰いたいものだ」
「莫迦を云いなさい。……私には勿論のこと、誰にもそんなことが分っているものか」
と四郎は強く打ち消した。しかし彼はそれを云った後で、なぜか妙に怯《おび》えたような眼をしていた。
8
英三とお里は、北鳴の好意によって、境町の新築の二階家へ引越していった。そこで新しい木の看板を懸け、階下を診察室と薬局と、それから待合室とに当て、二階を夫妻の住居に選んだのだった。それは全く、何とも云えない爽々《すがすが》しい気分であって、二人は夢のように悦び合った。これならば、門をくぐる患者も殖えることであろうと思われた。
「オイお里。……どう考えても、北鳴氏は親切すぎやしないかねえ」
「アラいやアね。また始まった。一体|貴郎《あなた》は幾度疑って、幾度信じ直せば気がすむんでしょ。……すこし気の毒になってきたわ」
「なアに、疑っているというほどではないよ。……それは親切でなくて、僕たちが幸運で、お誂え向きのところへ嵌ったといった方がいいかもしれない。とにかく、この家は素敵だぜ」
まだ子供のない二人は、いつも新婚夫婦のように若々しくて、仲がよかった。
「オイオイ、ちょいと上って来てみろ、妙な櫓が建つ!」
と英三は階下の細君に向って叫んだ。
「アラ櫓ですって。……」
お里は驚いた顔つきで、トントンと急な階段をのぼってきた。
「まあ本当だわ。右と左と、同じような櫓ですわネ」
「どこかで見たような櫓だネ」
「どこかで見たって、ホホホ、もち見た筈よ。だって、里のお父さんの家の二階から見えたと同じような櫓ですわ」
「そうそう、憶《おも》い出した。……すると、あれは矢張り、北鳴氏の実験に使うものなんだネ。ほう、妙な暗合だ」
「赤外線を採集して映画を撮るんだとい
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