に於て植物のため取押えられ処刑された者は、約四千四百万名に達する。
 彼ら脱飛者たちの多くが目指すところは、龍骨座密集星図に属するスバル太陽系の七個の惑星であるが、彼らがこの宇宙移住に成功するためには最短路をとるとして約一千光年の距離を翔飛せねばならず、実際に目的地へ到達し得る者は全体の一パーセント程度であろう。
 しかし地球人類としては、植物より受ける過酷なる圧迫による絶望と、第五氷河期襲来の予測とにより、危険を承知で、この最後の賭博に参加する外ない。

 人暦六千五百五十年

 世界の混乱は極度に達する。
 混乱を生ずる因子は、何といっても内憂外患の激化にある。すなわち地球外の他の惑星からの侵入者は四千万に達し、これを防衛する地球植物と地球人類とは実力に於て常に不利なる立場にあり、而も地球植物、殊に可動植物は地球人類を服従|乃至《ないし》無力化せんとして到る所に於て暴行を事とし、史上最高の暗黒時代である。
 この混乱の究極に於て、智能の点で地球生物より段違いにすぐれている他の惑星よりの侵入者が勝利を占めそうに思われる時機があったが、何故か彼らは突然撤退を開始したので、宇宙の侵入者による禍は急に解消するに至る。

 世界暦二千二百年

 人類は地球の支配権を遂に植物に譲らなければならなくなる。
 人類は最早到底、その量と力の上に於て、可動植物群に対抗し得るものではない。彼ら植物群の本能イズムとそのエネルギーは、人類が従来積上げたあらゆる文化力や防衛力を笑殺し、無慈悲に蹂躙し、そして無残に破壊して行く。人類の運命は明らかに傾いたといえる。

 世界暦二千百五年

 第四氷河期は終熄を告げた。
 地球の上に再び春が訪れた。だが、深刻なる地底耐乏生活百年を経て、地上に匍い出した人達は、氷河期以前の約百分の一に過ぎない。しかしこの率は、予想外の好成績である。
 地球上に、春は訪れ、夏は来った。百花開き、樹海は拡がり、黴類は恐ろしく生成し、地球全体は緑で蔽われ人々はたらふく野菜や果実をとって悦ぶ。だが人々は、蠅取苔が人間に噛みつくようになったり、歩行する植物に出会ったりするので、少し気味が悪くなる。

 世界暦二千五十五年

 第四氷河期が襲来!
 北太平洋と南太平洋とに於て、激烈なる火山活動が始まり、その噴出物は天空に舞上って太陽の光を遮断するに至る。かくして氷河期となる
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