西端《せいたん》まで、ゴーッと音をたてて横に動くのだった。
「おい、政《まさ》ッ!」わし[#「わし」に傍点]は、クレーンの運転手をやっている男を、人垣の中に呼んだ。
「へえ――」政は、紙のように、白い顔をして、おずおずと、前へ出てきた。
「クレーンが、真夜中に動き出すてのは、本当かな」
「わたしは、ナなんにも、存《ぞん》じませんです。しかし、クレーンのスウィッチは、必ず切って帰りますで、真夜中に、ヒョロヒョロ動き出すなんて、そんな妙なことが……」
そこまで云った政は、発作《ほっさ》みたいな様子となり、言葉のあとをブツブツ口の中で呟《つぶや》いて、それから急に気がついたかのように、ワナワナ慄える両手を、周章《あわ》てて背後に隠したのだった。
「よォし。今夜は、一つ正体《しょうたい》を確かめてやろう。いいか、みんな夜中の十二時を廻ったら、裏門前に集るんだ!」
2
合宿所の、三階の、廊下を、パタパタと音をさせて、近づいてくる跫音《あしおと》があった。
「組長さん、おいでですか――」
その跫音は、「舎監居間《しゃかんいま》」と書いた木札《きふだ》を、釘で打ちつけてあるわし[#「わし」に傍点]の室の入口の前で停るが早いか、そう、声をかけたのだった。
「おう。誰かい」
「栗原《くりはら》です。倉庫係《そうこがかり》の栗原ですて」
「栗原? 栗原が、なんの用だッ」
「へえ、ちょっと工場の用なんで……」
「なにッ。工場の用て、どんなことだか云ってみろ」
「へえ、実は――」栗原は、言い淀《よど》んでいる風だった。「先日《せんじつ》お持ちになりました乙型《おつがた》スウィッチが、急に入用になりましたんで、いただきに参ったんですが……」
「スウィッチなんか、明日にしろ」
「ところが生憎《あいにく》、工場で至急使うことになったんで、直ぐ持って行かないと困るんでして、実にその……」
「よォし、いま入口を開けるから、ちょっと待て」
暫くして、わし[#「わし」に傍点]は、入口の扉《と》を、サッと開けた。
「どうも相済《あいす》みません」栗原は、わし[#「わし」に傍点]の顔を見るなり、ペコリと頭を下げた。
「お前、この間、そう云ったじゃねえか。このスウィッチは、当分《とうぶん》不用《ふよう》だから、いつまでもお使いなさい、とな」
「申訳がありませんです」栗原は、ひどく恐縮
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