》が、感ぜられるのだった。皎々《こうこう》たる水銀灯の光の下で仕事をする人々は、技師といわず、職工といわず、場内の一隅《いちぐう》に据えられた、高さ五十尺の太い熔融炉《キューポラ》の周囲《まわり》を取巻いて、一斉に上を見上げていた。熔融炉の側には、松の樹を仆《たお》したような大電纜《だいケーブル》が、長々と横《よこ》わっていたが、これは忘れられたように誰一人ついているものは無かった。
「駄目だァ、何にも見《め》えねえ」
「着物の端も、残っていねえよ」
そんなことを叫びながら、熔融炉の頂上に昇っていたらしい男工《だんこう》達が、悲痛な面持をして降りて来た。白い手術着を着て駈けつけた医務部《いむぶ》の連中も、形のない怪我人《けがにん》に対して、策の施《ほどこ》しようも無く、皆と一緒に、まごまごしているだけだった。
「どうも、お気の毒でしたが」工場長が、わし[#「わし」に傍点]の傍へ近づくと、興奮した語調で云った。「気がついたときは、おせいさんが、もう熔融炉《キューポラ》の、殆んど頂上まで、昇っていたんです。でも、それと気がついて、(停めろ、下りろ)と、下から叫びましたが、何も聞えない風で、アレヨ、アレヨと云っているうちに、火焔《かえん》の中へ飛びこまれたようなわけで……」
わし[#「わし」に傍点]は、云うべき言葉もなかった。
「おせいさんは、覚悟の自殺を、やったらしいですよ。どうした訳か判りませんが」この工場の組長が、続いて口を挟《はさ》んだ。
そこへ、ドヤドヤと皆《みんな》を掻《か》きわけて、前へ、飛び出した者があった。
「ああ、死んじまった。おせいさん、俺を残して、何故死んでしまったのだ」
気が変になったように喚いているのは、クレーン係の政だった。
「オイ、政。どこへ行くんだ」政に追い縋《すが》っているのは、雲的《うんてき》や源太だった。
「おお、おせいちゃん。おれも、直ぐ行くよォ――」
「おい、待てと云ったら」
政は、恐ろしい力を出して、源太を投げとばすと、呀《あ》ッという間に、熔融炉《キューポラ》の梯子の上へ、ヒラリと飛び上った。
工場の人々は、まだ生々《なまなま》しい惨事のあとに続いて、どんなことが起ろうとしているかを、早くも悟《さと》って、戦慄《せんりつ》の悲鳴をあげた。
「早く、あの男を捉《つかま》えろ!」
「引ずり下ろせ、あいつは死ぬつもりだ
前へ
次へ
全20ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング