んた》、友三《ともぞう》、雲的《うんてき》」
「そうだ、そうだ」
「もっとも、人間一人で動くようなクレーンじゃない」
「ああ、すると誰が動かしたんだ」
「組長さん。もう我慢が出来なくなった。どうか、ここから出して下せえ」
「俺も、出るッ」
「いや、出ることならぬ」わし[#「わし」に傍点]は呶鳴《どな》った。「クレーンを動かした者が、判らぬ限り」
「組長さん、そりゃ無理だよ」源太が泣き声を出した。「ありゃ、生きてる人間のせいじゃないんだ」
「なんだとォ――」
「あのクレーンには、何か怨霊《おんりょう》が憑《つ》いていて、そいつがクレーンの上で、泣いたり、クレーンを動かしたりするんだ」
「ああッ――」
それを聞くと、誰もが、痛いところへ触《さわ》られたように、跳《と》び上って駭《おどろ》いた。
「おお、組長」雲的《うんてき》が云った。「誰かが、外で喚いているようですぜ」
「なに、外で喚いているッ」わし[#「わし」に傍点]は、予期しないことに吃驚《びっくり》して云った。なるほど、多勢の声で、何やら喚いているのが、遥《はる》かに聞こえるのであった。「じゃ、みんな、外へ出よう」
一同は、ワッといって、入口の扉《と》の方へ、先を争って駆けだした。ガラガラと、重い鉄扉《てっぴ》が、遠慮会釈《えんりょえしゃく》なく、引き開けられる物音がした。
「おう、組長、大変だア」疳高《かんだか》い声で叫ぶものがある。
わし[#「わし」に傍点]は、ギクリとした。
「組長」わし[#「わし」に傍点]の胸倉《むなぐら》に縋《すが》りついたのは、電纜工場《ケーブルこうじょう》の伍長《ごちょう》をしている男だった。「おせいさんが、大変だッ」
「なに、おせいが、一体どうしたというんだ」
「おせいさんが――」伍長は、苦しそうに言い澱《よど》んだ。「おせいさんが、熔融炉《キューポラ》へ、真逆《まっさかさま》に、飛びこんでしまった」
「熔融炉へ、飛びこんだ、というのかッ」
わし[#「わし」に傍点]は、それを聞くなり、おせいの働いていた電纜工場めがけて、矢のように駆け出した。
わし[#「わし」に傍点]のあとには、組下のものや、惨事《さんじ》を報《しら》せに来た連中が、バタバタと追いついて来るのであった。
電纜工場の入口を一歩入ると、凄惨《せいさん》極《きわ》まりなき事件の、息詰まるような雰囲気《ふんいき
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