名士訪問記
――佐野昌一氏訪問記――
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)どんな塩梅《あんばい》ですか。
−−
編輯部からこの妙な訪問記事をたのまれて、正直なところ大いに弱っている。人の話によると、佐野昌一氏と僕とはたいへんよく似ているそうで、途中で会っても佐野氏やら海野やらちょっと見分けがつかないそうである。そのように似ているため、僕はよく佐野氏に間違えられ、得をしたり、損をしたりする。得についてはともかくも、損についてはかねがねいつか氏に対し怨みをのべたいと思っていたところだったので、今日はそれを果すつもりで編輯部から教えられたとおり田村町一丁目のテキスト・ビルの三階へのぼる。階段の上に、とたんに金文字の看板があって、「佐野電気特許事務所」とある。どういうつもりか「電気」の二字が赤塗になっている。
氏は大きな革製の椅子に小さい身体を埋めて、大きな出勤簿を机上にひろげハンコを出してぺたりと捺しているところだった。
「やあ佐野さん。毎日御出勤だそうで、なかなか勤勉ですねえ。」
「いやどうも、海野先生。なにしろこの出勤簿が私の出勤を待っていると
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