思いますと、休みたくても休めないのです。開所以来、無欠勤ですよ。」
「それはたいへんですね。ここでのお仕事はどんな塩梅《あんばい》ですか。」
「いやそれがですよ、まだ開業御披露も済んでいないのに千客万来で、休息の遑《いとま》もありません。」
「ほう。そんなに特許をたのまれますか。」
「これは内緒ですが、今のところもう出願が八つと異議申立が一つ来ています。この景気では、事務所をもっと拡げ、所員も殖やさねばなりません。」
「すると本当に仕事を頼まれているのですね。失礼ながら意外ですねえ。すると特許料など、他よりやすくしているのですか。」
「ああ礼金のことですね。あれは弁理士会の規則があって、最低料金が定められています。私のところは他の特許事務所よりも可也《かなり》たかいのです。」
「えっ、やすいのではないのですか。」
「どういたしまして。なかなか高い料金をいただくことにしています。」
「それで流行《はや》るとは、一体どういうわけかな。どうも分らない。」
「それはそれだけの値打があると思っていますよ。電気の特許に関しては、御一報次第参上して、発明者から十分間ぐらいお話を伺うだけで、あとは何も
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