て中へ足を踏み込みますと、さあたいへん、僕は彼より五分間後れて帰ったばかりに一大事突発です。熊井君は床の上に倒れて死んでいたのです。顔色は変り、心臓は停っていました。とうとう彼はやったのです、自殺を……。全く残念でした」と、柴谷は目をしばたたき「自殺の手段は、すぐ分りました。卓子《テーブル》の上に、飲みのこしのウィスキーの壜があり、その横に空になったコップがありましたが、ぷーんと強く杏仁《あんにん》の匂いがしていました。彼は青酸加里を用いたのです。もうちょっと僕が早く戻って来れば、こんなことを彼にさせずに済んだものを。全く残念でたまりません」
「よく分りました。で、その日、誰か来客がありましたか」
「いいえ、ありません。二日間というものは、誰も来なかったです」
「その死んだ熊井君は煙草をすいましたか」
「いや、彼は全く煙草をやりません」
「なるほど。それから、貴方が山荘へ戻られたとき、玄関の扉は空いていましたか、それとも閉っていましたか」
「ええと、たしかに閉っていました」
「部屋の窓はどうでしたか」
「部屋の窓も全部閉っていました」
「ああ、そうですか。そこで柴谷さん」と旗田警部はち
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