岡部伍長は、厳粛《げんしゅく》な敬礼をして、よき部隊長の前を下がった。
 さあ、たいへんである。
 これは、今までのように、彼の趣味だけの仕事ではない。軍からの命令であった。国軍のために、実戦に役立つ地下戦車を設計するのだ。たいへんな任務であった。
 彼は、早速《さっそく》その夕刻《ゆうこく》、原隊《げんたい》から、所持品一切をもって、隊本部へ移った。
 彼のために、一つの部屋があたえられた。それは、やがて倉庫になるらしい木造のガランとした部屋であった。
 夕食が済むと、彼は、下士官集会所へも顔を出さず、この新しい部屋へもどってきて、電灯をつけた。
 彼は、どこから手をつけようかと考えながら、ひろい部屋の中を、こつこつと靴音をさせながら、あるきまわった。
 彼は、ふと、窓のそばによった。凍《こお》りついたつめたい窓硝子《まどガラス》の向こうに、今、真赤な月がのぼりつつあった。
 ああ、月がのぼる。
「月を見ると、思い出すなあ」
 と、岡部伍長は、ふと、ひとりごとをいった。
「ゴルフ場ともしらず、三十頭のもぐらを放して、もぐらが土を掘るところを研究したあの夜、あの月を見たなあ」
 もぐら
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