そして万年筆を握って、何か書き出した。
「未来の地下戦車長、岡部一郎」
 筆墨《ひつぼく》はなくても、未来の地下戦車長、岡部一郎と書くことをお休みにすることはできない。
 そのうちに、小田さんが、目をさました
「おやおや、もう習字をやっているね。そのうちにやめるかと思ったがなかなかつづくね。全く感心だ」
 小田さんは感心をして、未来の地下戦車長のために、朝の弁当を買ってくれた。
 除雪車を見たのは、その日のお昼ごろであった。汽車は、雪のため、昨夜来《さくやらい》、やや速力がにぶってきたが、とうとう午前十時ごろには、雪の中に停ってしまった。そして、向うから除雪車が来るのを待つこととなった。
 二時間ぐらいたって、
「ああ、来た来た。ロータリーだ」
 と、人々がさわぎ出したので、一郎はまだぐうぐうねむっている小田さんをゆすぶり起して、外へ出た。線路の横の雪山のうえにのぼると、除雪車が黒煙《こくえん》をあげつつ、近づくのが見えた。ロータリーだ。ロータリーに当って、雪は、まるで爆布《ばくふ》[#「爆布」はママ]のようにうつくしく横へはねとばされる。壮観《そうかん》とは、このことであろう。中空《
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