》のやわらかいやつみたいだ。こいつは掘るのに、なかなか手間がかかる。しかし、そこまで掘れば、大体いい水が出るね」
「水なんか、どうでもいいのですよ」
「いや、こいつを心得ていないと、とんだ失敗をする。わしが若いころ井戸掘りやっていたときには……」
 と、そこまでいったとき、御隠居さんは、自分の家の人に呼ばれたようである。(お爺《じい》さん、余計なことを言《いい》なさるものじゃありませんよ)(なあに、かまやしないよ、わしは、若いとき井戸掘りで渡世《とせい》していたんだから)(だって、あまり名誉な仕事でもないわ)(そんなことはない。第一、お前もわしが井戸掘り稼業《かぎょう》をしたればこそ、おまんまに事欠《ことか》かなかったんだし、それに井戸掘りがなけりゃ、誰も水が呑めやせん。水が呑めなければ、飯がのどへ通るかい)などと一郎の頭の上で、大分やかましい話がやりとりされていたが、やがて、御隠居さんの顔が、穴の上に現われて、
「おい、一郎さん。シャベルだけじゃ、穴は掘れないよ。うちに、つるはしがあるから、それをお使い」
「はい、すみません」
「そのうちに、わしも、腰の痛いのがなおったら、手伝うよ。
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