ふーん、それはまあ、そうだろうな」とうなずき、
「だが、岡部。ほんのぽっちりしか掘れなくても、もしもこれを毎日つづけて一年三百六十五日つづけたとしたら、どうだろう。計算してみたまえ」
「計算? 計算するのですか」
「そうだ。技術者というものは、すぐ計算をやってみなければいけない。多分このくらいだろうと、かん[#「かん」に傍点]だけで見当をつけるのは、よくないことだよ。技術者は、必ず数値のうえに立たなくちゃ」
 係長さんが、むつかしいことをいいだしたので、一郎少年は、わけがわからなくなった。
「数値のうえに立つとかいうのは、なんのことですか。石段の上でも、のぼるのですか」
「冗談じゃないよ。数値の上に立つというのが、わからないかね。岡部は森蘭丸《もりらんまる》という人を知っているかね」
「森蘭丸? 森蘭丸というのは、織田信長の家来《けらい》でしょう。そして、明智光秀が本能寺に夜討《ようち》をかけたとき、槍をもって奮戦し、そして、信長と一緒に討死《うちじに》した小姓《こしょう》かなんかのことでしょう」
「そうだ、よく知っているね。どこで、そんなことおぼえたのかね。ははあ分った。浪花節《なに
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