いるのだよ。出来たら、お前も入《い》れてお貰《もら》い」
 そういって、母親は安心して、奥に引込んでしまった。
(防空壕? ははあ、これが防空壕に見えるかなあ)
 防空壕をつくるにしても、一人では、たいへんである。シャベルをもつ一郎の両腕は、今にも抜けそうになってきた。しかし彼は頑張って、土と闘った。
 それでも二十分程かかって、やっと腰から下が入る位の穴が掘れた。
 彼は、疲れてしまって、自分の掘った穴に、腰をかけた。シャベルの先をみると、土とはげしく磨《す》り合《あ》ったために、鋼鉄が磨かれて、うつくしい銀色に、ぴかぴか光っていた。
 鉄と土との戦闘である――と、彼は、また一つ悟《さと》ったのであった。
 それから彼は、また頑張って、庭を掘りつづけた。ようやく、自分の体が入るだけの穴が出来たとき、また母親が顔を出した。
「一郎。もう三十分前だよ。会社へ出かけないと、遅くなりますよ」
「はい。もう、よします」
 人間地下戦車は、土を払って、立ち上った。
 さて、この調子では、いつになったら、本当の地下戦車が出来ることやら……。
 だが、この一見ばからしい土掘り作業こそ、後《のち》の輝
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