、その後で、この寒いのに、シャツとパンツとだけになって、庭におりた。
「さあ、僕は地下戦車だぞ。どこから、もぐるかなあ」
彼の手には、シャベルが握られていた。
「さあ地下戦車前進!」
彼は自分で、自分に号令をかけた。そして、えっさえっさと懸《か》け声《ごえ》をして、シャベルで、庭の土を掘りだした。
弟の二郎が、その声をききつけて、とんできた。
「兄ちゃん。そこを掘ってどうするの。畑をこしらえて、お芋《いも》を植えるの」
「ちがうよ」
「じゃあ、ううッ、西瓜《すいか》を植えるの。玉蜀黍《とうもろこし》植えるの」
二郎は、自分の大好きなものばかりを、かぞえあげる。
「ちがうよ、ちがうよ」
「じゃ、なにを植えるの。僕に教えてくれてもいいじゃないか。あ、分った。南京豆《なんきんまめ》だい。そうだよ、南京豆だい」
「ちがうちがうちがう。ああ、くるしい」
一郎はふうふういって、泥だらけの手の甲《こう》で額《ひたい》を横なぐりに拭《ふ》いた。
「あ、兄ちゃんが顔を泥だらけにした。お母ちゃんに、いいつけてこようッと」
二郎は、ぱたぱたと縁側《えんがわ》をはしっていった。一郎は、自分の掘った
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