周囲の土をけずりますが、しかし前方の土をけずりません。ですから、この車体で前方へ押しても、前方から押しかえされますから、前進出来ません」
「なるほど。では、これを如何に改良せばよろしいか」
「自分の考えとしましては、この先の廻転鋸は力がありませんから、鋸でなく、錐《きり》にかえた方が有効だと思います」
「錐か。どんな形の錐を用いるのか。ちょっと、これへ描いてみよ」
「はい」
少佐に命令されて、岡部は、ちょっとたじろいだが、ぐずぐずしていることは出来ないので、鉛筆をとりあげた。そして、かんたんな図ではあったが、咄嗟《とっさ》に浮んだ形を、そこに描いてみた。〔第二図〕
[#第二図(fig3234_02.png)入る]
「なんだ、これは? 芋《いも》か葉巻煙草《はまきたばこ》かという恰好だな」
と、少佐は、にが笑いをして、岡部伍長の顔を見上げた。
第一号の試験
「はい。すこぶるかんたんでありますが、これなら、前進する自信があります」
岡部伍長の顔は、真赤にほてっている。
「どういうのかね。説明をきこう」
「はい。この大きな部分が、車体であります。エンジン、乗員、その他武装もついているのであります。この前方の三角形は、実は円錐形《えんすいけい》の廻転錐《かいてんきり》を横から見たところでありまして、これが廻転するのであります。自分の最も苦心しましたところは、この回転錐であります」
「ほう、ここを苦心したか。どういう具合に苦心したのか」
「はい」
と岡部はいったが、まさか夢に見たもぐらの話をするわけにもいかないので、
「……ええ、要するに、この円錐形の廻転錐はふかく土に喰《く》い入《い》り、土をけずりながら、車体を前進させます」
「なるほど、ぎりぎりと、ふかく喰《く》いこみそうだな。車体が、大根の尻尾のように、完全な流線型《りゅうせんがた》になっているようだが、これはどうしたのか」
「はい。これは、錐のためけずりとられた土が車体のまわりを滑《すべ》って後方へ送られますが、送られやすいためであります」
「そうなるかなあ」
と、少佐は、首をひねった。
「少佐どの。けずられた土は、どんどん後方へ送られますが、そこに或る程度の真空が出来ます。ために、土は、とぶようにますます後方へ送り出されると考えます」
「ふむ。これだけかね。ほかに何か、附属品はつかないのか」
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