未来の地下戦車長”と、また書き始めたのであった。
「おや、岡部。お前、なかなか字がうまいじゃないか」
とつぜん、うしろで、係長の小田《おだ》さんの声がした。
「いやだなあ、ひやかしちゃ……」
と、一郎は、きまりが悪くなって、顔をあかくした。
「なんだい、この“未来の地下戦車長”というのは……」
小田係長は、にこにこ笑いながら、うしろから一郎のあたまをおさえた。
「うわッ。いたい」
と、一郎は、係長さんの手を払《はら》って、その場にとび上った。
「あれッ。どうした。どこがいたい」
「係長さん、ひどいや。僕の頭に、いたい瘤《こぶ》があるのに、それを上から、ぎゅッとおすんだもの」
「ははあ、瘤か。そんなところに瘤があるとは知らなかった。地下戦車長岡部一郎大将は、はやもう地下をもぐって、そして、そんなでかい瘤を、こしらえてしまったのかね」
係長さんは、うまいことをいった。
一郎は、こまってしまった。
そこで彼は、未来において地下戦車長を志《こころざ》すわけを、係長に話をした。
「そうかい、これはおどろいた。君は、本気で、地下戦車を作るつもりなんだね」
「そうですとも」
「それで、なにか、やってみたのかね」
「え、やってみたとは……」
「なにか、模型でも、つくってみたのかね。それとも、本当に、穴を掘って、地下へもぐってみたのかね。頭に瘤をこしらえているところを見ると、さては、昨日あたり、もぐらもちの真似をやったことがあるね」
係長さんは、しきりに、一郎の頭の瘤を、いい方へ考えてくれる。
しかし、この瘤は、そんなことで出来たのではなかった。尤《もっと》もこの瘤は、昨日出来たことだけは、係長さんのことばどおりであったけれど。この瘤は、じつをいえば、昨日、停電した家へ、一郎がいって、ヒューズの取換《とりか》えをやったが、そのとき、うっかりして、鴨居《かもい》へ、頭を、いやというほどぶつけたため、出来た瘤であった。決して、名誉な瘤ではなかったのである。
「係長さん。僕は今のところ、こうやって、毎日手習いをしているのです。そして、神様に祈っているのです」
「なんだ、たった、それだけかい」
「ええ、今のところ、それだけです」
「それじゃ、しようがないねえ」
係長さんは、はきだすようにいった。
「手習いしていちゃ、いけないのですか」
「いや、手習いは、わるくはないさ。し
前へ
次へ
全46ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング