。日本の国防力が、うんと強くなるにちがいない。だから僕は、きっと作りあげるのだ。地下戦車を!」
岡部一郎は、そんな風に、いうのであった。
それは、正《まさ》しく一郎のいうとおりであった。地下戦車とは、じつにすばらしい思いつきである。地下戦車が出来たら、そいつは、どんどん、地面の下を掘っていって、敵陣の真下に出るのであろう。そして、爆薬をそこに仕掛けるとか、或いは、めりめりと、敵の要塞《ようさい》のかべを破って、侵入する。さぞや敵は、胆《きも》をつぶすことであろう。たしかに、そいつは強力な兵器である。
一郎の思いつきは、じつに、すばらしいのであるが、はたして、そんなものが出来るであろうか。こいつは、なかなかむつかしい問題である。
「そんなもの、出来やしないよ。だって、水の中や空気の中じゃないんだもの。地面を掘ってみても、すぐわかるけれど、土というものは、案外かたいものだよ」
と、一郎の仲良しの松木亮二《まつきりょうじ》が、いったことである。
「そんなに、かんたんに、出来やしないよ。しかし、工夫すれば、きっと出来ると思うんだ。それに、地下戦車が日本にあれば、すてきじゃないか。どこの国にだって、負けないよ。僕は、なんとかして、地下戦車を作るんだ」
「だめだよ。そんなむずかしいものは……」
「いや、作るよ。作ってみせる。きっと作って、亮二君を、びっくりさせるよ。いいかい」
「だめだめ。出来やしないよ。そんな夢みたいなこと」
亮二は、一郎のいうことを、とりあわなかった。
いや、亮二でなくとも、大人でも、一郎のいうことを、とりあわなかったであろう。
「日本のため、僕は、どんなことがあっても、地下戦車を作ってみせるぞ」
電灯会社の修理工の一郎は、だんぜん地下戦車を作りあげるつもりである。さればこそ、毎朝、“未来の地下戦車長、岡部一郎”と、大きな文字を書いて、自分をはげましているのであった。
はたして、地下戦車は、一郎の手によって、出来上るだろうか。今のところ、少年修理工岡部一郎と地下戦車との間には、あまりに大きなへだたりがあるように見える。
痛い瘤《こぶ》
一郎は、それから後も、ずっと、“未来の地下戦車長”の手習《てなら》いをつづけていた。
或日、彼は、会社の机に向って、そこに有り合わせた修理|引受書《ひきうけしょ》用紙を裏がえしにして、ペンで“
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