んが、急に新潟県へ出張することになった。
それを聞いた一郎は、ぜひ小田さんについて行《ゆ》きたいとねがった。彼は、東京育ちであったから、新潟県というところを、見たくなったのである。
それを聞いて、小田さんは、
「おい岡部、今ごろ新潟県へいっても、すこしも、おもしろいことはないよ。今は、雪ばかり降っているのだ。高田市などは、もう四、五メートルも雪が積っているという話だから、たいへんだよ」
小田さんは、一郎をつれていって、風邪《かぜ》を引かせるといけないと思い、そういった。
「ぜひ僕は、いきたいんです。小田さん、僕は、雪がそんなに降ったところを見たことがないから、ぜひみせてください。それから僕は、もう一つ、ぜひみたいものがあるんです」
「もう一つみたいものって、なにかね」
「それはねえ、ラッセル車です」
「ラッセル車?」
「つまり、鉄道線路に積っている雪をのける機関車のことです。いつだか、雑誌でみたのですよ。雪の中を、そのラッセル車が、まるい大きな盤のようなものをまわして、雪を高くはねとばしていくのです。すばらしい光景が、写真になって出ていた」
「ああ、そうか。それなら、ロータリー式の除雪車《じょせつしゃ》のことだな。そんなものをみて、どうするのかね」
と、主任の小田さんは、また目をくしゃくしゃさせ、そしてしきりに鼻の下をこすった。
「それは、いわなくても、わかっているじゃありませんか。僕、このロータリーとかいうのを見て、地下戦車をこしらえる参考にしたいのです。だから、ぜひつれていってください」
「ははあ、そうか。やっぱり、そうだったのか。よし、そういうわけなら、所長に頼んで、なんとかしてやろう」
小田さんは、わかりの早い人である。そこで所長にうまく話こんでくれた。その結果、岡部一郎は、破格《はかく》の出張を命ぜられることとなった。
生れてはじめての遠い旅行である。小田さんと待ちあわせて、上野駅を夜行でたった。汽車は、たいへん混んでいた。
「岡部、安心して、ねなさい。朝になって、いいときに、私が起してあげるから」
小田さんは、一郎をねるようにすすめた。一郎は一時に気づかれが出て、まもなく、ぐっすりと寝込んだ。
朝は、早く目がさめた。一郎を起してくれるはずの小田さんは、まだぐうぐうねむっていた。一郎は、起きるとすぐ、手帳を出して白い頁《ページ》をひろげた。
前へ
次へ
全46ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング