昔とった杵《きね》づかだからねえ」
「いえ、もうたくさんです。御隠居さん」
一郎は、一生けんめいに辞退した。老人間《ろうにんげん》の地下戦車なんて、どうひいき目に見ても、役に立たないであろう。それに、また腰が痛くなったり、リューマチが起ったりすると、今、いい合っていた口喧《くちやかま》しやの娘さんから、恨《うら》まれる。つるはしを借りただけで、応援の方は、ごめん蒙《こうむ》ることにしようと、一郎は思ったことである。
土はこび少年隊
つるはしは、すこぶる重かった。
(こんな重いものが、ふりまわせるかしら)と、始め隣りの御隠居さんから借りて来たときは心配した一郎だったけれど、そのつるはしをうまいことふりあげて、下《お》ろすときにはつるはしの重味で、さっとふり下ろすと、うまい具合につるはしは土の中にくい込むのだった。あまり力も要らない。なるほど、つるはしを皆が使うはずだと、一郎は感心した。つるはしを使い出してから、横穴は、どんどん先の方へあいていった。その代り、実に厄介《やっかい》なのは、土を地上へ上げることだった。むしろこの方に手間がとれた。といって、土をそのままにして置くと、いつの間にか、通路がふさがってしまって、外へ出られない。土を退《の》けることが、たいへんな仕事であることが、しみじみと感じられてきた。
そこで一郎は、思い悩んで、ぼんやり考えこんでいると、弟の二郎が、遊び仲間の子供たちを沢山つれて、やってきた。
「ほらネ、防空壕だろう。うちの兄ちゃんが、ひとりで、こしらえているのだよ。どうだい、すげえだろう」
「二郎ちゃん。この防空壕には何人はいれるの」
「それは……それは、ずいぶんはいれるだろうよ」
「じゃあ、僕もいれておくれよ」
「だめだめ、信《しん》ちゃんなんか。信ちゃんは、ねぐるいの名人で、ひとの腹でも何でも、ぽんぽん蹴るというから、おれはいやだよ」
「そんなこと、うそだい。その代り、僕、二郎ちゃんの兄ちゃんの手伝いをするぜ。うんと働くぜ」
「でも、そんなこと、だめだい」
「おい、二郎」
二郎が、後をふりかえった。
「なんだい、兄ちゃん」
「お前たちで、土をはこべよ。防空壕が出来たら、土をはこんだ人は、みんな中にはいってもいいということにするから。その代り、土をはこばない人は、ぜったいに、いれてやらないよ」
「そうかい。おい、みんな聞
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