ぱってくることだ。気を付けていると、その度に、彼は麻雀牌の面《めん》に刻《きざ》みつけてあるしるし[#「しるし」に傍点]をギュッと強く撫でまわした。それがために、拇指《おやゆび》の腹が痛くなりはしないかと思われた。これは彼の悪い癖《くせ》である。
第三は、星尾助教授が、大きい和《あ》がりに躍りあがって喜んだ拍子に、隣りの園部の湯呑茶碗《ゆのみぢゃわん》をひっくりかえしてしまったことだ。大騒ぎになって牌《こま》をどかせるやら、濡れたところを拭《ふ》くやら、新しい卓子布《テーブル・クロース》を持ってこさせて、四人が四隅《よすみ》をひっぱって、鋲《びょう》で卓子へとめるやら、うるさいことであった。一度は、
「吁《あ》ッ、痛ッ!」
と松山が大声で叫んだので、みると、指の尖端《とっさき》を口中に入れて舐《な》めていた。なにか乱暴なことをやったものらしい。それを誰かが野次《やじ》ったものらしくドッと笑声がわきあがったが、どうしたものか、其後《そのご》一座は、たいへん静かであった。
「どうかしたの、みどりさん。どんな気持なんですか、ええ?」
園部が、その対門《むかい》にいるみどりを頓狂《とんき
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