蒸《む》しするのも太陽の黒点《こくてん》のせいだよ」と一番、入口のカーテンに近いところに背を向けて腰を下ろしている理科大学の星尾助教授が言って、麻雀の牌《こま》をガチャガチャと、かきまわした。
「太陽の黒点なんか蹴っとばせ、てえんだ。――やあ、いいものを引っぱってきた」と機嫌のよいのは、仲間の一人で、星尾助教授の対門《むかい》にいる慶応ボーイで水泳選手をやっている松山虎夫だった。
「今日は、ちっともいいのが来ないわ」と松山の左手に坐っていた川丘みどりが、真紅に濡れているような唇をギュッと曲げて慨《なげ》いた。そして象牙《ぞうげ》のように真白で艶々《つやつや》しい二の腕をのばして牌《こま》を一つ捨てた。
「それで和《あ》がりだ」と叫んで、自分の手を開けてみせたのは、「豆シャン」と綽名《あだな》のある美少年|園部壽一《そのべじゅいち》だった。少年といっても彼は大学の建築科二年だから、仲間の男の中では一番若かったが、川丘みどりは十九だったからこれよりは兄さんだった。
「園部さん、窓をあけてよ、暑いわ」みどりが「お狐《きつね》さん」と綽名《あだな》されているすこし上《あが》り気味《ぎみ》の腫《
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