探せば見付かるでしょう」
 その脱脂綿《だっしめん》は果して屑籠の中にあった。
 しかしそれでは脱脂綿について、星尾に対する嫌疑は、みどりのところから逆戻りの形になった。みどりから盗んだ綿は、星尾の手に入り、それから豊乃の手にうつったものとすれば、星尾が田舎道に捨てた毒物の附着している綿はどこから彼が持って来たのであろうか、彼自身が始めから持っていたものと解釈するより外ない。園部が捨てたのではないことは、星尾がその綿を所持していたことを自白している。しかし星尾は豊乃に奪取《だっしゅ》されたことを知らないらしい。
 今や、事件の焦点は脱脂綿の出所《でどころ》にあつめられた。みどりの用意していた綿の外に、どこからか星尾が持って来た毒物の附着した綿があるのである。しかし、それの出所《でどころ》を確かめる鍵《キー》は、どこにも見当らなかった。随《したが》って松山殺しの犯人は星尾を最も有力とし、川丘みどりを第二とし、園部を第三とし、豊乃は多分犯人ではあるまいと思われるが、一応第四としてみたが、さてこれぞと思う有力な証拠もあがらなかった。事件は文字どおり迷宮《めいきゅう》へ入ってしまったのである。
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