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其夜《そのよ》、帆村探偵は、彼の研究室に閉《と》じ籠《こも》って、事件の最初から今日の調べのところまで幾度となく、復習をしてみた。考えてみると、星尾とみどりの嫌疑の濃厚なのに比べて、園部については殆んど考えることがなかった。しかし、それは本当になにも疑うべき点が無《な》いのであろうかと、帆村探偵は一時、仮装殺人を園部の上にうつして考え直してみた。
的確なる証拠というものはなかったけれども、疑えば(一)園部が湯呑み茶碗をわざと倒されやすい場所に出して置いたと考えられること。(二)みどりが気分が悪いと云ったときに彼が非常に狼狽《ろうばい》したのは、彼が牌《こま》に塗りつけた毒物がみどりを犯したのではないかと危《あやぶ》んだせいではあるまいか。(三)園部の座席は一番隅で毒物を塗ったり、あとで毒物を脱脂綿で拭《ぬぐ》ったりするのを秘密にやりやすいこと。(四)星尾が脱脂綿を落したことを園部が刑事に教えたのは、他のことについては口を緘《かん》して語らない彼としては、不審な行動と思われないこともないこと。(五)園部が、わざと星尾と同じ駅に下車し、しかも人殺しの兇器になりそ
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