くりかえしてみながら「湯呑をひっくりかえしたのは星尾信一郎だな。星尾に嫌疑《けんぎ》がかかりますね」
「だが雁金検事」と帆村は言った。「茶碗をひっくりかえされるような場所に置いておくこともできますからね」
「それでは園部の湯呑み茶碗だったというから、園部が犯人というわけだね」と河口警部はおかしそうに笑った。「そりゃ余りに考えすぎていませんかな。それよりも犯人は殺人の機会をとらえるために、常に毒物や、仕掛のしてある鋲や、それから帆村さんの説によって使ったことが判った脱脂綿などを常に携帯していたわけだから、昨夜《さくや》捕《とら》えてきた三人の所持品を検査すればいいと思う。いや、実は今朝《けさ》、部下のものから報告があったのですが、問題の脱脂綿《だっしめん》がみつかったのです。それを持っていた人間まで解っています」
 検事と帆村探偵は呆気《あっけ》にとられた。
「それは星尾です。実は星尾を押《おさ》えに行った部下の刑事が、こちらへ護送してくる途中、星尾がソッと懐《ふところ》から出して道端《みちばた》に捨てたのをいち早く拾いあげたのです。それには茶褐色《ちゃかっしょく》の汚点《おてん》がつい
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