せんでした。これは甚《はなは》だ遺憾《いかん》に思っとります。唯《ただ》一つお目にかけて置きたいのは、この鋲《びょう》の頭です(と、前夜|卓子《テーブル》の脚のところから拾いあげた針のとれている鋲の頭を示しながら)これは犯行に関係のあるものなんです。ごらんなさい、この鋲《びょう》の頭は非常に薄く擦《す》りへらされています。これは故意にそうなされたもので、この鋲の頭に小さい穴があいていますが、この鋲を拇指《ぼし》の腹でグッと麻雀台に刺しこむと鋲の頭の肉が薄いために針が逆につきぬけて拇指《ぼし》をプスッと刺し貫く筈です。松山は犯人の注文どおりに拇指《ぼし》に傷をこしらえてしまったのです」
「それはお手柄だ」と検事が言った。「なにか犯人の指紋でも残っていませんか」
「松山の指紋はハッキリ附いていますが、其《こ》の外《ほか》には誰の指紋も見当りません」
「すると犯人は松山にその鋲をつかわせる機会を覘《ねら》っていたことになるね」と警部が云った。
「その鋲を使わせるために、犯人は湯呑み茶碗をひっくりかえさせて、白布《しろぬの》をとりかえました」
「ウン、それは」と検事は控帳《ひかえちょう》の頁を
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