誰に殺されたか、それはすこしも判っていない。こんなに多くの証拠をのこして置きながら、犯人自身の識別に関するものは、今のところ一つも見当らないのです。この犯人は、犯罪にかけて非常な天才を持っているのに違いありません」
 それにしても帆村が短時間のうちに解決してくれた犯行の方法は、今後の取調べに非常に便宜《べんぎ》を与えてくれるものに違いなかった。その点で検事たちは帆村を慰《なぐさ》めたのであった。そこへ、三人を探しに行った刑事たちがドヤドヤと帰って来た。


     4


 その後の取調べは、翌日のおひる過ぎから同じ場所で始められた。
「松山の死体解剖の結果、自殺ではなく他殺であることが判りました。毒物は帆村さんの説のとおり、拇指《ぼし》から入ったもので、死因は心臓|麻痺《まひ》、毒物はストロファンツスらしいとのことで、すべて帆村さんの説と一致していました」
 と河口警部が、最初に報告した。
「それでは私も御報告をして置きましょう」と帆村探偵が、いつに似ず元気のない口調で云った。「麻雀|卓子《テーブル》の附近についていろいろと集めた資料を検査してみましたが、すこしも犯人の見当はつきま
前へ 次へ
全38ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング