の麻雀を、今夜は思う存分闘わしてみようと思った。
「あ、こりゃ大変だ」
と帆村は、麻雀|倶楽部《クラブ》の競技室のカーテンを開くと、同時に叫んだ。この暑いのに、文字通り立錐《りっすい》の余地のない満員だった。
「いらっしゃいまし。今日は土曜の晩なもんで、こう混《こ》んでんのよ、センセーッ」
麻雀ガールの豊《とよ》ちゃんが、鼻の頭に噴きだした玉のような汗を、クシャクシャになった手帛《ハンカチ》で拭き拭き、そう云った。
「先生――は、よして貰いたいね、豊ちゃん。あの星尾信一郎《ほしおしんいちろう》氏は本当の先生なのに、あいつ[#「あいつ」に傍点]のことは、シンチャン、シンチャーンってね……」
「いけないワ先生」と豊ちゃんは、真紅に耳朶《みみたぼ》を染めながらそれを抑えた。「いま星尾さん、いらしっているのよ。そんなこと聞えたら、あたし、困っちゃうワ」
「困るこたァ無いじゃないか、豊っぺさん」と帆村はますます上機嫌に饒舌《しゃべ》った。「こんなことは、聞えた方が目的は早く叶《かな》うよ。それとも僕、本当にシンチャンに言ってやろうか。豊ちゃんが実は昔風のなんとか煩《わずら》いをしていますが、
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