降りる。家は駅のすぐ近くで、両親のもとに住んでいる。そのまた次のC駅で、川丘みどりは降りる。駅の前を斜に三丁ほど入ったところに彼女の伯母の家があって、そこに寄寓《きぐう》しているとのことであった。
帆村探偵は、改めて電話を署にかけると、彼等の帰宅を擁《よう》して、即刻《そっこく》現場へ連れ戻ってほしいと希望をのべたのであったが、それは直ぐさま承諾された。
3
帆村探偵は、それがすむと、一秒も惜しいという風に、階下へ降りて行って、松山の屍体を入念に調べあげた。別に特別の発見もなかったが、唯一つ、右の拇指《ぼし》の腹に針でついたほどの浅い傷跡《きずあと》があって、その周囲だけが疣状《いぼじょう》に隆起《りゅうき》し、すこし赤味が多いのを発見した。これは松山が、白布《しろぬの》の張りかえのときに「痛いッ」と叫んだところのものであろうが、その傷はいつ頃からこうして出来ていたものか、詳《たし》かでなかった。毒物は、口から入ったか、注射されたか、またはこうした傷口から入ったのであるか、それは興味深い問題であるが、帆村探偵はこの傷跡をちょっと重大視したのである。
屍体の調べが
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