いたんだけど、いらないって仰有《おっしゃ》ったのよ。シンチャン達、しばらく見ていなすったんですけれど、もう遅くなったし、帰るからあとを頼むって帰っちゃったんですわ」
「そりゃ、すこし薄情《はくじょう》だな」
「だってシンチャン達、遠いのよ。松山さんだけは、直ぐそこだから、そいでもいいのよウ」
 と豊ッぺは、シンチャン達の郊外生活に同情ある弁明をこころみた。
「じゃ、僕、みてってやろうかな」
 帆村探偵は、傍《そば》の小扉《ことびら》をあけて、小さな階段をコトコトと下《くだ》って行った。下《お》り切ったところが狭い廊下になっていて、そこにだだっ広《ぴろ》い室《へや》がある。そこは、この建物にいる皆の寝室だった。障子を開いてみると、果してそこに寝床が一つ敷いてあった。頭が痛いというのに、松山は頭から夜具《やぐ》をひっかぶって寝ていた。
「松山さん、松山さん、どうですか、気分は」
 と帆村は、だんだん声を大きくしていったが、松山はウンともスンとも返事をしなかった。
(よく睡《ねむ》っている……)
 帆村は、そっと障子をしめて踵《きびす》を二三歩、階段の方へ引返した。が、なにを考えたものか突然
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