競技に夢中になることができたのであった。


     2


 帆村探偵の卓子も、それから三十分ほどして、勝負が終った。最後の風に、莫迦あたりを取った彼は、二回戦で合計三千点ばかりを稼ぎ、鳥渡《ちょっと》いい気持になった。卓子を離れるときに、あたりを見廻すと、どの卓子もすでに客は帰ったあとで、白い真四角の布《クロース》の上に彩《いろどり》さまざまの牌《パイ》が、いぎたなく散らばっていた。時計を出してみると、もう十一時をすこし廻っていた。
 隣りの広間《ホール》にも客はもう疎《まば》らだった。豊ちゃんが、睡そうな顔をして、近所の商店の番頭さんのお相手をしていた。
「豊ちゃん、さよなら」
「さよなら、センセ――じゃなかったホーさん」
「みんな、もう帰っちゃったかい」と、聞かでもよいことを帆村はつい訊《き》いてしまった。
「お嬢さんに、園部さんにシンチャンは、今帰るからって帰ったばかりよ。松山さんだけ奥に寝ている筈よ」
「ナニ、松山さんは本当に病気だったのか」
 と帆村は、意外だという面持をした。
「あら、どうして? 気分がとても悪いんですって。お医者を呼びましょうかって、先刻《さっき》き
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