鏡の前に立っている乃公の本体が既に死んでしまっているのだという事実を証明することになるではないか。
(……)
 切り裂くような大戦慄が全身を走った。乃公は慌てて、鏡の中にうつる乃公のあとを追って、ピストルを持つ腕を胸の方にぐんぐんあげた。だから間もなく乃公は、鏡の中の乃公に追いついた。
(ああ、恐ろしかった!)
 乃公は身体中びっしょり汗をかいた。
 ピストルは、遂に胸の上いっぱいに持ち上がった。銃口がぴたりと左の肩にあたる。それから左の肩がじりじりと廻転してゆく。半眼を開いて、照準をじっと覘《ねら》う。狙いの定まったままに、なおもじりじりと左へ廻転してゆく。
「き、き、き、きっ……」
 というような声をあげて、何も知らない二人は戯《たわむ》れ合う。
「ち、畜生!」
 憎い女だ、淫婦め!
 ちらと鏡の中に、自分の顔を盗みみると、歯を剥《む》きだして下唇をぐっと噛みしめていた。口惜しさ一杯に張りきった表情が、必然的に次の行動へじりじり引込んでゆく。引金にかかっている二本の指がぐっと手前へ縮んで……
「どーン」
 あ、やった。
「……う、ううーン」
 電気に弾《はじ》かれたように、女はのけ
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