君には、さらに相済まない。それとともに、この事件によって、友人の妻君と乃公との間の潔白は、どうしたって証明することが出来なくなったのである。乃公は妻君の死体の傍に俯伏《うっぷ》して、腸をかきむしられるような苦痛に責めさいなまれた……。
「……ああ、なんたる莫迦だろう。乃公はいま夢をみて泣いているぞ」
 ふと、どこかで、自分が自分に云ってきかせる声が聞えた。なあんだ、ああこれは夢だったのだ。
 入口ががたりと開いて、どやどやと一隊の人が雪崩《なだれ》こんだ。その先登には、妻君の横にいた美男子がいたが、乃公の顔をみると、ぎょっと尻込《しりご》みをして、大勢の後に隠れた。
「神妙《しんみょう》にしろ!」
 警官の服を着ている一隊は、乃公に飛びかかって腕をねじあげた。乃公はいよいよこれから死刑になるのだなと思いながら、いと神妙に手錠をかけられたのであった。それから先は、さっぱり記憶がない。
 以上の二つの夢を聞いて、君はどう思うか。なんと不思議な話ではないか。あまりにはっきりしすぎている夢だとは思わないか。


     3


 静かな冬の朝だった。
 陽は高い塀に遮《さえぎ》られて見えない
前へ 次へ
全32ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング