彼はなんでも、非常な高利で金を貸しつけて金を殖やしているそうだったし、たった一人、自宅で待っている妻君のところへもごく稀にしか帰って来なかった。妻君は心配のあまり、よく乃公のところへ来ては、いろいろ自分の到らないせいであろうからよくとりなしてくれるように、などといって、いつまでも畳の上にうっぷして泣いているという風だった。こんな人のよい、そして物やさしい女はないだろうと思った。それを一向知らないような顔付きで、うっちゃらかしておくその友人の気がしれなかった。
そんなわけだから、乃公はたいへんその妻君に同情して、機会あるたびに彼女を慰《なぐさ》めてきたのだ。そのたびに妻君は、乃公を訪ねてきたときよりはいくぶん朗かになって帰ってゆくのだった。しかしこのごろかの友人は、自分の妻君と乃公の間を妙に疑っているらしい。それは実に莫迦《ばか》げた腹立たしいことだけれど、二人きりで幾度となく、同じ屋根の下に居たということが、禍《わざわ》いの種となっているのだった。それは実に困ったことだった。
「その問題の妻君を、乃公は手にかけて殺してしまったのだ。ああ、どうしよう」
友人に会わす顔がない。殺した妻
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