が、空はうららかに晴れ渡って、空気はシトロンのように爽《さわや》かであった。
 真白の壁に囲まれた真四角の室の中で、友人の友枝八郎は、また私に例の夢の話のつづきをするのであった。
 どうも乃公《おれ》は、ときどき頭が変になるので困るよ。年齢《とし》のせいでもあるまいのに、いろんなことを取り違えて困るのだよ。
 このまえ君に、夢の中で同じような人殺しを二度くりかえしてやったことを話したと思うけれど、どこまで話したのかも、第一忘れてしまった。二度目の分は、たしか乃公が刑務所の未決に繋《つな》がれてから話したように思うが、たしかそうだったね。
 それについてだが、乃公は滑稽な取違えをしていながら、それに気がつかないで、真面目くさって君に話をしたように覚えているがそうではなかったかね。実を云えばあの話をしているときには、君という人が夢でない方の現実の世界の人だとばかり思っていたのだ。しかしこうやって、例の殺人事件にかかわり、この刑務所の一室に相対しているところを見ると、君もまたあの夢の方の国に住んでいる人だということが判った。いままでどうしてそれに気がつかなかったろう。
 乃公はどうも話が下手
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