っかりと机が飛びだしてくることも、夢の中だから、あったとて別に不思議はないのだ。
 ――銃口を左の肩にあてがい、狙いを定めて、静かに肩を左に廻してゆく。男と女とは、小声ながら、呼吸をはずませて云い争っている。若い女の、なんというか恨《うら》み死《じに》するような感能的な鼻声が聞えた。……
「そこだっ、――こん畜生!」
 乃公はピストルの引金をひいた。
 どーン。
「きゃーッ。……」
 魂切る悲鳴が、部屋をひき裂かんばかりに起った。
 ――見れば女は、片手で肩のあたりを抑えどうと絨毯の上に倒れたが、もう一方の腕をしきりに動かして、手あたりしだい掻き※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》っているのだった。
「どうしたんだろう?」
 乃公は不審に思って、射殺した筈の女の方へ近づいた。女はまだ死にきってはいなかった。しかし見る見る気力が衰えてゆくのがはっきりと判った。肩先にあてていた真赤な血の染《そ》んだ手が徐々に下に滑り落ちてゆくと、傷口がぱくりと開いて、花が咲いたように鮮血がぱっとふきだした。ひたひたと女の四肢が震えたかと思うと、やがてぐったりと身体を床に落として、そして遂
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