が、空はうららかに晴れ渡って、空気はシトロンのように爽《さわや》かであった。
真白の壁に囲まれた真四角の室の中で、友人の友枝八郎は、また私に例の夢の話のつづきをするのであった。
どうも乃公《おれ》は、ときどき頭が変になるので困るよ。年齢《とし》のせいでもあるまいのに、いろんなことを取り違えて困るのだよ。
このまえ君に、夢の中で同じような人殺しを二度くりかえしてやったことを話したと思うけれど、どこまで話したのかも、第一忘れてしまった。二度目の分は、たしか乃公が刑務所の未決に繋《つな》がれてから話したように思うが、たしかそうだったね。
それについてだが、乃公は滑稽な取違えをしていながら、それに気がつかないで、真面目くさって君に話をしたように覚えているがそうではなかったかね。実を云えばあの話をしているときには、君という人が夢でない方の現実の世界の人だとばかり思っていたのだ。しかしこうやって、例の殺人事件にかかわり、この刑務所の一室に相対しているところを見ると、君もまたあの夢の方の国に住んでいる人だということが判った。いままでどうしてそれに気がつかなかったろう。
乃公はどうも話が下手で弱るんだ。いいかね、もう一度云うとこうだ。君に例の夢の中の殺人事件について話をした。ところが乃公は殺人罪で刑務所に入れられてしまったのだ。その刑務所へ君はしばしば訪ねてくれたではないか。すると殺人事件のあった世の中と君の住んでいる世の中とは、全く同じ世の中だったことが証明できるじゃないか。乃公は君に夢の国の殺人事件の話をした。しかも君は、乃公から云わせれば夢の国の人だったのだ。乃公にとっては、あの事件は夢の中の出来ごとだけれど、君にとっては、君が住んでいる世の中の出来ごとだったんだ。しかし、乃公はいま、夢の国の中で話をしているのだよ。……そんなことを先から先へ考えてゆくと、頭の悪い乃公には、いつも何方が何方だかわからなくなるのだ。あとは誰かの判断に委《まか》せて置くことにして、――さて、あれから先のことを話そう。
或るとき乃公は、さっきも云ったように、刑務所の未決に繋がれている自分自身を見出したのだ。その原因が例の大鏡のある部屋の殺人事件に関係していると知って、乃公は、
「まあ、何という長ったらしい夢を見ることだろう?」
と呆《あき》れてしまった。
後で聞いた話だけれど、そのと
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